2015年10月の読書メーター
読んだ本の数:6冊
読んだページ数:1585ページ
ナイス数:76ナイス
真理先生 (新潮文庫)の感想
真理(しんり)先生というやたら物事の真理にこだわり、啓蒙するように弟子などに説教をする変わり者の話から始まり不安だったが、途中から話は絵描きとそのモデルたちに移る。著者自身が素朴な野菜などの絵を描くひとだったこともあり、絵描きどうしの競争心とか尊敬とか嫉妬などにリアリティを感じた。嫉妬によって人々が小さな村の中を動き、語り手がその人々の間を動きまわるのだけど、不思議と終始朗らかな雰囲気に落ち着いている。最も面白いのは、職業もあやふやで主体性の薄い語り手の存在だ。この非人間的な触媒によって物語が成り立つ。
読了日:10月18日 著者:武者小路実篤
小さき者へ・生れ出づる悩み (新潮文庫)の感想
こどもたちが幼いうちに作家の奥さんが亡くなってしまったらしい。「小さき者へ」は私小説というより、ほとんどこどもたちへの手紙。未来に向けた応援のようでもあり懺悔のようでもある。「生まれ出づる悩み」は珍しく二人称で書かれた小説。職業漁師であり絵描き志望の青年に向けて「君よ!」と呼びかける文体で、こちらも手紙みたいだ。その青年にはモデルがいるらしく、夏目漱石が人の経験を基に書いた『坑夫』と作品成立の経緯が近くて思い出す。有島武郎と同じく白樺派の武者小路実篤や志賀直哉を読みたくなる。
読了日:10月17日 著者:有島武郎
地図にない町 - ディック幻想短篇集 (ハヤカワ文庫 NV 122)の感想
SF作家として知られているディックだけど、これは初期(50年代)の作品を集めた幻想短編集ということで、その名の通りSFらしさは薄く、出来の悪い幻想小説のよせあつめみたいな体裁を取っている。アニメ『ハウルの動く城』のソフィーのように若返ったり老いたりする老人の短編があるが、エリアーデが似たような老いをテーマとした幻想小説をよく書いているものだから、ディックのこの一冊と頭の中で比較してしまう。圧倒的説得力不足。突飛な法則の世界があってもいいが、その法則の必要性を書けなければその世界に魅力はない。
読了日:10月17日 著者:フィリップK.ディック
リヴァイアサン (新潮文庫)の感想
「六日前、一人の男がウィスコンシン州の道端で爆死した」の一文で始まるこの物語は単純に面白いとは言い難い。でも、とても奇妙な本でもあるので読み捨ててしまうのはもったいない。語り手の作家は爆死したのが親友だと推測する。事件の結末から始まり、そこまでの経過を始めから追っていく構成は探偵の謎解きと全く同じだ。ミステリーや人間小説としての側面もある。一方で、収束的な構成や「リヴァイアサン」というタイトルやギミックとしても暗喩としてもオースターらしい探偵という存在によって、一筋縄ではいかない複雑な物語になっている。
大きな事件の結末は分かり切っていたが、最後の数ページに書かれた大きな事件の中の小さな事件の顛末は、全く予期していなかった温かさと切なさの混ざった感情を呼び起こすものがあった。
読了日:10月2日 著者:ポールオースター
ミスター・ヴァーティゴ (新潮文庫)の感想
皮肉の効いた饒舌なジョーク、それだけにはオースターらしさを感じたが、それ以外は全くちがう作家の小説のように思えた。そして、面白くはない。おとぎ話みたいだ、それは悪い意味で。空を飛べてもそれはそれで良いが、空を飛べる世界にこの小説の場合、特別な意味は込められているようには思えない。
読了日:10月17日 著者:ポールオースター
新潮 2015年 10 月号 [雑誌]の感想
「最高傑作にして、おそらくは最後の長編」という煽りに期待が高まった筒井康隆の「モナドの領域」だが、神のような存在がリアリズムからは遠すぎて戸惑う。予備知識程度の役割しかないが頻繁にGODによって語られる哲学や精神分析的な知識は衒学的な気分にさせてくれていいのだが、やはり大筋としては納得しづらい荒唐無稽さが残る。が、「パラフィクション」という概念を強く意識して書かれていて、文学史上では一つの大きな点になるのかもしれない、なんてことをおもう。文豪だから許されたお遊び、みたいな面白味は楽しい。
読了日:10月4日 著者:
- 作者: ポールオースター,柴田元幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2002/11/28
- メディア: 文庫
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