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『100万回生きたねこ』というテクストの読解

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(校正を兼ねて)

  『100万回生きたねこ』(佐野洋子著作)を私が初めて読んだのは、すくなくとも高校三年生のころであり、したがって大人になってから読んだといっていいとおもいます。この作品は絵本であり、1977年に出版されて以来、今でもなお紹介されることや書店に並んでいるという知名度からしても、子供のころ比較的多く絵本を読んでもらったりしていたことを顧みると、子供のころにこれを読んでいないことは不思議です。母親に確認したところ、やはり私は子供のころには読んだことがないようで、大人になってからしかこれを読むことができませんでした。
  私がこの作品を今回の課題のために読んだのは、人生で二回目の読解でありますが、二回とも読み終えた感想としては一言でいうと「よく分からない」というもので、漠然とした不可解さが残りました。その「分からない」というのも、作者がなにを考えてこれを書いたかということが最も頭にひっかかり、そういった作者の意図なるものはどうでもいいという指針で普段は作品の読解をするでありながらも、そう思ってしまうのでした。何を言いたいとか、何を表現したい、ということが一見しただけでは全く見えてきませんでした。あるいは何かの風刺として表現されているのか、など。
  結末として、自分のことが最も好きだったねこが、大切な相手をみつけ子供をもうけ、その相手が死に、その悲しさでねこ自身ももう一度も生き返ることがなく死ぬ、というものですが、単純に二極化したハッピーエンドともバッドエンドとも言い難く思えるのでした。そういうこともあって、読み終えた感想として、「だから何だと言うのだろう」という不可解さが残るのでした。

  そこで、インターネットショッピングサイトの「Amazon.co.jp」でこの作品のレビューを参照しました。そこには合計183件のレビューが書かれていて、また商品に五段階評価を付けてレビューを書くことができるのですが149件のレビューが5、24件が4と評価されていました。例えば評価五のレビューにこういうものがあります。

「まさに大人のための絵本」( 2009/2/10)
人を傷つけて 成長して 人の痛みを知って 結婚して 子供が生まれて 
命の大切さを知って 素直に感動できるようになって・・・

そんな人にはグッと突き刺さる1冊となります。
僕がそうでした。

  すべてのレビューを読んだわけではありませんが、ざっと目に付く辺りのものをながめたところ、「生きる」「死ぬ」「愛」「家族」「輪廻」「感動」「泣いた」というような単語がいくつも並べられていて、とても意外で私には衝撃でした。たしかに、「愛」や「家族」の尊さなどは表面的に読み取れないこともありませんが、本当にそれを読みとれるテクストかということや読みとるべき意味が他にいくらでもあるにちがいないとい思いが強すぎて、「Amazon.co.jp」にある直情的単語を並べた有象無象のレビューはあまりにも一つの側面しか表現していないように思えて、安直な枠にはまってしまっていることが如何に危険かということを改めて思い知りました。
  この作品の主人公がねこでありそのねこが中心に描かれているにもかかわらず、多くの読者はねこを人間と置換して読解しているのが当たり前の方法となっていますが、これは大概、絵本や童話はなにかを隠喩で表現している、という前提からなされています。それは読解の知識による方法であります。おそらく子供にはそういった前提を元にしてこの作品を読めないでしょう。この作品が、「大人のための絵本」といわれる所以はそこにあるでしょう。この「大人のため」というのは、「大人こそが読むべきだ」という意味が込められているように私には思えますが、この主張に甚だ疑問が残るところです。
  絵本や小説形式のものでも、それら児童文学の中には大人でも読む価値があるものというのは沢山あります。ですが、この作品がそこに入っていいのかということが疑問なのです。まず、題名からして「百万回生きた」という表現がいかがわしいものですし、「100万年もしなないねこがいました」や「100万回もしんで、100万回も生きたのです」という設定にしても、この大前提と小前提で生命の尊さを否定していて、作品全体が陳腐なものに陥っているのです。
  生命の尊さの否定の上に置かれた、愛の尊さの肯定が許されるのでしょうか。結局のところ、作者もこの作品に「Amazon.co.jp」で4や5段階評価を付けるような読者というのは、生命の尊さを実感しない状態にいるということではないでしょうか。それとは別に、「愛」にだけ気付いている、つまり一つの方向だけしか見ずにいることが、心身二元論の主張者のようで危険だというのです。
  私自身、特に命の尊さを実感しながら生きているわけではないのですが、こう軽々しく生きて死んでを表現されると、どことなく不快感を覚えるのです。

■参考にしたサイト
Amazon.co.jp:カスタマーレビュー 『100万回生きたねこ』(佐野洋子の絵本)」(http://www.amazon.co.jp/product-reviews/4061272748/ref=dp_top_cm_cr_acr_txt?ie=UTF8&showViewpoints=1)

「『100万回生きたねこ』-独断でおすすめの1冊」(http://www.asahi-net.or.jp/~uz4s-mrym/page/osusume/osusum15.html)

100万回生きたねこ (講談社の創作絵本)

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