2014年3月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:3183ページ
ナイス数:121ナイス
■フィクション
新装版 キリング・フロアー 上 (講談社文庫)の感想
映画化されたジャック・リーチャーシリーズ『アウトロー』の原作一作目。しかしいきなり殺人罪で逮捕されるリーチャーに驚き。そしてまさかの兄が登場。リーチャーは警察や組織の外部から事件を追うキャラクターなので、探偵小説の内に入るのだろう。彼のクールでハードボイルドで冗談も言うキャラに憧れ、事件は謎に満ちているので文字を追うのが楽しい。『アンアン』2013年12月の本特集のインタビューで村上春樹もこのシリーズを読んでいると答えていて、なんとなく嬉しくなる。ただ邦訳されているものが少なく品切れもあるのが残念。
読了日:3月17日 著者:リー・チャイルド
新装版 キリング・フロアー 下 (講談社文庫)の感想
事件の謎が解ける寸前とその直後が頂点。極限のカタルシス。謎を追う過程、伏線の張り巡らし方、その答えの意外さ。すべての流れのバランスが良くなければ辿りつかない領域を体験した。その完璧さに感動さえ覚えた。しかし、犯行手口や犯人がわかってからの作戦の描写は結果がわかってしまっているから敗戦処理的なものになるのだが。本シリーズのジャック・リーチャーは完璧でもないし、大きな犯罪を潰すために小さな犯罪を繰り返し殺人までするが、その陰を背負った姿が格好良く見えるのか、実に魅力的な正義の味方だ。
読了日:3月25日 著者:リー・チャイルド
極北の感想
仮に数百年後を書いた物語だとしても、語り手が雪に覆われた陸の孤島の住人ならばその進んだ文明や時間が目立つことはない。文明の崩壊が彼女の周りでは起こっていて、それはディストピア的なSFらしく見える。舞台はロシアとその周辺というのは固有名詞が出てくるのでわかるが、時代は近現代か現代か未来か、その捉え方は読者次第。展開は意外だが終始暗い物語であり、文学ではあろうがストーリー重視なため楽しくはない。ただ、以上のような世界観が面白く背後にある原発、戦争などの社会的なテーマが興味深い。村上春樹のとても読み易い訳。
読了日:3月25日 著者:マーセル・セロー
想像ラジオの感想
『文学界2014年1月号』の柄谷行人といとうせいこうの対談で強く興味を持った本だが、残念な出来だった…。明らかに3.11の被災者たちを中心に語っていながら、地震、津波、原発、放射能という単語を全くあるいはほとんど使わない。それは当事者の意識としては半分正しいが、はやり不自然さはあってそれが痛々しくもある。この本は津波や戦争の被災の話でしかなく、彼らの新興宗教的かつ感傷的ななぐさめにしかならず、ただただ生温い。この本の話題性というのは3.11的なパニックと同様で、一冊の本としての価値はゼロに近い。
読了日:3月15日 著者:いとうせいこう
永遠の0 (講談社文庫)の感想
戦争はいやだなぁ、と思わせる小説。それを伝えるには十分な出来だろう。これから戦争を起こさないためにはどうすべきか、せめて加担はしたくないと考える。加担するくらいなら、座禅を組んで瞑想をし続けたほうがいい。それが何を生み出さないとしても、無とか無駄という美徳がある。特攻隊員のエピソードは実に悲惨でその物語に夢中にさせる。でも、現代の子孫たちの話は蛇足に思えるし、全体的に無駄に長すぎる。半分読んだらそれ以降は10倍の速さで読んでいいくらい。この本は面白いし好きだが、長すぎるところだけが残念。
読了日:3月11日 著者:百田尚樹
文学界 2014年 01月号 [雑誌]の感想
読んだ:柄谷行人といとうせいこうの対談「先祖・遊動性・ラジオの話」、藤沢周「化野(あだしの)」、穂村弘「も詩も詩」など。柄谷×せいこうの対談、面白い。柄谷『遊動論』おすすめ。はやく『想像ラジオ』を読みたい。穂村弘さんはここでくらいしか読まないが、毎回地味におもしろい。詩とその解説によって、常識とか現実とかを別の角度から見せてくれて、ハッとする瞬間がある。文芸誌を読むと当然知らない作家の方がたくさん載っていて、奇跡的な巡り合いもあれば、こんなにも自分に響かないつまらない小説もあるものかと不思議にもなる。
読了日:3月11日 著者:
タイタンの妖女 (ハヤカワ文庫 SF 262)の感想
ユーモアがありニヒルで厭世的で荒唐無稽でスペースオペラで幻想的でSFで。爆笑問題・太田光さんが紹介していて気になっていて読み始めたが、彼の解説が付いていない古い版というのが残念。時間も宇宙の移動距離も壮大で、キャラクターがばらばらに生きていて、追いつこうとしたが途中で断念した。
読了日:3月10日 著者:カート・ヴォネガット・ジュニア
タイム・パトロール (ハヤカワ文庫 SF 228)の感想
「西暦19352年、ついに時間航行の方法が発見された」。そして始まる人類の時間旅行。なんだか「タイム・パトロール」という名前が『ドラえもん』でも出てくるし、カバーのイラストも「正義の味方」っぽいので小馬鹿にしつつ読み始めたが、中身は凄く真面目で歴史の知識がないと分かりづらい。時代は遥か未来から紀元前へと振り幅が大きいし、世界の様々な土地を舞台としている壮大なタイムトラベルもの。こんな縦にも横にもキャラクターが文字通り縦横無尽に移動できる小説を書こうとする意志が凄い。難しいが面白い。
読了日:3月2日 著者:ポール・アンダースン
■ノンフィクション
私たちはどこから来て、どこへ行くのかの感想
講演、講義などを基にしてまとめられた本。サブカルについて語られている部分も少ないがあって、そこらへんは付いていけるが政治になってくるととても難しい。でも、社会学としてしっかりとした内容になっていて勉強になる。宮台真司の思想として偏っていそうだが、そこは第三者的な注釈によってある程度中和されている。この本の刊行を記念した講演も聴かせていただいたのだが、その話にしても本にしても知らないことも聴いても一度ではわからないことも多々あり、未知の領域の広さを実感した。やはりサブカルを語っている第三章がお気に入り。
読了日:3月25日 著者:宮台真司
森の食べ方―熱帯林の世界〈5〉の感想
東南アジアのボルネオ島の奥深くの森に住む焼畑稲作民のイバン。イバンの農業や食生活などが、(このシリーズの他の巻と比べて)わりとしっかりと記録されている。分析的な目線が強いが、他の巻にあるようなエッセイ的な面が弱いので面白味に欠ける。組立てが簡単なロングハウスに住んでいるのが特徴で、ある程度の範囲を周期的に移住しつつ暮らす。
読了日:3月10日 著者:内堀基光
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