だらだらと汗にまみれながら下着一枚で、
昼食のどんぶり一杯のラーメンを居間で食べたあと、
猫と戯れたりと家のなかをうろうろしていた。
気づくと扇風機が三台あった。
しかも今、家じゅうで全てが回っていた。
北と南の部屋、それに猫の部屋。
猫の部屋という部屋は実はないけれど、
猫たちがよく涼んでいるスペースをただそう呼んでいる。
奇妙な光景だ。
いや、ふたつの目玉で見渡せるようにそれらは配置されていないが。
しかし、確実にこの家の中で三台の扇風機が稼働中なのだ。
現代アートのような、
あるいは科学の実験のような、
なぜかそういうアヴァンギャルドな想像に頭が支配される。
流動力学的あるいは物理学的に、
三台の扇風機が起こした空気の流れにより、
時空に歪みができる。
その時空の隙間ができる可能性は極めて低い。
偶然の中の偶然の偶然で起きる、という程度に。
扇風機の配置場所、
家じゅうの窓の開閉による外から入る風の流れ、
羽の周り具合による風の強弱、
そして首の振り具合。
それらによる組み合わせは何通りもある。
ふと、今いる北の居間にある扇風機を眺めていたはずが、
そこが回りの食器棚やソファなどを残して、
中心の空間を切り抜いたみたいに見たことのない野原が見えた。
緑の地に入道雲が浮かび、黄色の花が散らばって見える。
それは一瞬。
次の一瞬、そこには元通り金属製の扇風機が、
その瞬間の光景を否定するように首を振って羽を回す。
ここに科学者がいて実験を始めようものなら、
世紀の発見ができそうなものだ。
だが、残念ながらこの観察者は科学者なぞではない。
ただの無職者。
扇風機 扇風機 センプウキ
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