髭が生えてくる。そりゃあもう顔中のどこからも髭が生えてくるようなもので、もはや一々一本一本を気にしてはいられないのだけれど。今問題としてみたいのは、両頬の辺りに生えてくる髭。
頬は少し痩せこけていて内側へへこんでいるものだから、この部分を髭剃りできっちりと剃るのはむつかしい。そのせいか、両頬の髭がやけに進化しているような気がして気になる。
猫には頬のあたりにたくさん細長い髭が生えていて、アンテナみたいになっている。あれは、猫にあって人にないものだけれど、人にあっても別に困るものではないようにおもえる。もし、この両頬の進化した髭を剃らず抜かずでいるとしたら、猫みたいにピンとした立派なアンテナが生えそろうのかと考えてみる。
でも、いつも進化を完全に終えるまでに手で触るとチクチクとして気になってしまって、だいたい剃って進化をゼロに強制的に戻してしまうのだった。たぶんみんなそうだから、人の頬髭は進化しきることができずにいる。
梶井基次郎の『檸檬』を読み直す。読み直すといっても、以前もこれは全てを読んだわけではなくてきっと表題作の「檸檬」しか読んでいない気がする。または、短編集なので読んだとしても記憶に残っていないか。
新潮文庫の本で、昔、兄の本棚にあったものを無断で借りて兄がいなくなってからもずっと借りっぱなしになっている。元からボロボロで、今もボロボロだ。こういう借りっぱなしの本というのは何冊かある。どれを見ても兄を思い出す。
『檸檬』には「桜の樹の下には」という短い話が入っていて、その一文目が「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」だ。衝撃の残る一文。たぶん有名な一文で、梶井基次郎の作品を読んでいなくてもどこかでふと耳したりして、なんとなく桜の樹の下には死体が埋まってそうだなあと思う人が多いんじゃないか。そんな噂とも都市伝説とも言いにくいかんじの物語。
- 作者: 梶井基次郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/10
- メディア: 文庫
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