今の私の眼を通せば、なんでも全てが『ライ麦』色に見えるだけなのかもしれないが。『ライ麦畑でつかまえて』(J.D.サリンジャー著)と『金閣寺』(三島由紀夫著)は似ている。
数週間前にちびちびと読み始めた『金閣寺』(新潮文庫)を、この二日で一気に読み切った。200ページくらいを過ぎたあたりで、『ライ麦』に似ているなと思い始めた。『金閣寺』の主人公の養賢と『ライ麦』のホールデンが似ている。
異常者の一人称作品という点で、まず近いものがあるとおもう。だが、養賢は犯罪者だがホールデンは犯罪者ではない。あとは、宗教性あるいは偶像主義的なところとか。それぞれの作品の金閣寺(鹿苑寺)とホールデンの妹のフィービーは、主人公にとって重要な象徴であるとおもう。なんの象徴かというのを説明するのは難しいからやらないが。
『金閣寺』の作中、養賢のその後は描かれていないがおそらく彼は病院に入院した。精神病院に。ホールデンのその後は作中で、彼自身によって語られている。精神病院(とは明言されていないが)に入院したと。
今の私の眼を通せば、なんでも全てが『ライ麦』色に見えるだけなのかもしれないが、この二つには共通性があるように見えてしまう。
読み終わったあとに知ったが、「金閣寺放火事件」という事件が実際にあったのか。
「金閣寺放火事件は、1950年7月2日未明に、京都府京都市上京区(当時の上京区は事件後の1955年9月に上京区と北区に分区したため、現在では北区にあたる)金閣寺町にある鹿苑寺(通称・金閣寺)において発生した放火事件である。アプレゲール犯罪の一つとされる。」(「金閣寺放火事件」、Wikipediaより)
三島の『金閣寺』はこの事件を題材にした長編小説だ。読みながら実在しそうな話だとは思っていたが、あまりそういうことは気にせず読んでいた。
それを知ると、『ライ麦』作品それ自体よりも、マーク・チャップマンによるジョン・レノン殺害事件との共通性が強まってしまう。そして、チャップマンが犯行時に持っていた『ライ麦』は奇妙な立ち位置になる。
金閣寺放火事件もチャップマンの事件も、動機が不明瞭だ。しかし、だからこそ人を惹きつけるものがあるのだろう、やはり。犯罪者が主人公で、心理描写が細かいという点ではドストエフスキーの『罪と罰』を思い出した。これはあまりおすすめしないが。
『金閣寺』は純文学作品ではあるとおもうが、実在の事件を題材としていることから純粋な文学作品だとはいえないかもしれない。事件が実在したと知らなければ問題ないのだが、知ってしまった以上、純粋に文学作品として評価することが難しい。
でも、小説として良く出来ていたとおもう。健常状態から異常へと移行する異常者の心理描写などが特にこの作品で面白いとおもった。三島作品は初だったが、『仮面の告白』など他の作品も読んでみたい。
- 作者: J.D.サリンジャー,野崎孝
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