sibafutukuri

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『上と外』 恩田陸(著)

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2009-09-09 07:52
『上と外』 恩田陸(著)



恩田陸という作家の本を読んだ。
『上と外』。
この作家の名前はネットで現代の作家の名前が
いろいろと薦められていたなかで挙がっていて知った。
現代の作家の小説というのはほとんど読まないが
興味はあったし、読むべきだとも思っていた。
で、この人の名前を知りコメントを読む限り挙がっている
作家のなかで一番信用できそうだからと選んだ。


子供の兄弟二人が中南米のジャングルで遭難したり、
巨大迷路でジャガーと追いかけっこをしたりする
冒険小説でありながら、家族や親類の繋がりなんかもよく描けている。


読後に回想してみても、やはり物語の整合性のために
ご都合主義がちょっと目に付くところや、
ジャングルでのサバイバルの描写などが目に付く人もいるのだろう。
でも、ご都合主義臭さを吹き飛ばすほどの展開や
唸らせる描写が多分にあることから自分は然程気にならなかった。
ジャングルのサバイバルに関しては、
ジャングルには入ったことがないしハリウッド映画を観るように
そんなものか、と傍観していた。
こういったディテールを気にするかしないかは、
その世界にのめり込めるかどうかだろうけど
自分はジャングルに関しては本当に無知なのだけど、
ご都合主義にも多少は目を瞑って割と楽しめて読み進められた。


というか、作中で矛盾しているなと思えるような部分は、
後に回収されるフラグだろうと思っていたのだが、
実際はそのまま放置であったということなのだけど。


その遭難した兄弟二人を助けるために、家族や親類が
各々の能力や人徳などを駆使して奔走する姿は
アニメ『サマーウォー ズ』で一つのテーマになっている
と考えられる家族の繋がりみたいなものに重なるところがあると思われる。
この『上と外』では家族の温かさや他人の優しささえも
ひしひしと伝わってくることがあるのだが、
どうも誰もかれもが善人であり手を貸してくれるという
こともまた少し現実味に欠けるといえるだろう。


読みつつも、これはアニメにしたら
結構面白いんじゃないかなぁと何度も考えていた。
アクションシーンが程良く組み込まれていて、
ハリウッド映画などでおきまりの、ギリギリで助かる
そういうシーンが何度かあったりして
それはまた、アニメにも多用されている手法だから
どうしても頭の中でアニメに関連させて
映像を勝手にアニメ風にしたりして考えてしまっていた。
アクション以外でも、例えば心理描写をアニメなら
どういった風に見せるのかとか
動物の動き、ジャングルや空などの背景などを
アニメならこうだろう、と思い浮かべる。
一種のアニメ中毒とも思える。


本作品は、冒険小説と思って読むと深すぎるし
純文学と思って読むと些か浅すぎるという
バランスが取れているといえば取れているのだろう。
自分はそのどちらの要素も気持ちよく受け入れられたので、
読後の快感というものも感ぜられた。


恩田陸という名前を知ってから、本書に至ったのは
単純に図書館にこれくらいしかなかったからだが、
その内容も全く知らなかったし、
作者のことも全く知らないままに読み始めた。
それで、ネットで作者のことを調べたのも読後のことで
ついさっき知ったのだが、なんだか名前だけは知っている
夜のピクニック』という作品も恩田陸のものだった。
著名な作家らしいということが分かった。


現代小説であることから分かり易いこともあるが、
読後の不快感もなくむしろ爽快な気持ちになれたのは
最近に読んだ書籍ではなかったことなので、
現代小説も悪くないなと思い至ることになった。


小説を読むにしても、現代小説の場合は
作者に権威を感じないことからどうも敬遠してしまう。
それが同族である日本人であると尚更強く嫌悪を抱く。


村上春樹の『ノルウェイの森』の登場人物のひとりで、
主人公の「僕」の先輩の台詞で、
「俺は死んでから30年経った作家の本しか読まない」
というような内容のものがある。
これにはだいぶ意表を突かれた。
こんなところで、
自分の「悪い」ところに直面するとは思っていなかった。
この先輩の言うことはほとんど自分の書物選びに通ずるものがある。


しかし、その先輩にも例外があり、主人公に
フィッツジェラルドはまだ死んでからX年しか経ってない」
というようなことを突っ込まれる。
彼にとってはフィッツジェラルドが例外であり
それは自分にとってサリンジャーということになるのかなと思ったりもした。
遠藤周作の小説などにも親しんでいるが、
考えてみれば彼の死後から13年ほどしか経っていない。
J・D・サリンジャーは存命。


「死後30年」というのは一つの例えであり、
それは作者に卑近さを感じるか偉大さを感じるか
という程度の差なんだろうと思う。


こういう主義を確かに自分は持っている。
そこには信念がある。
が、正直これは悪習でもあると考えている。
どういう主義にしろ、書物選びをする際に
指標が定まっていることは楽なのだけど、
そこに拘泥することは危険であるとも実感する。


上と外〈上〉 (幻冬舎文庫)

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