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映画『沈黙 -サイレンス-』の感想 - 神だとか神じゃないとか

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 公開初日の1月21日にマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』を見てきた。

 遠藤周作の原作も窪塚洋介も好きだからすごく気になってはいたけれど、すくなくとも原作は陰鬱な雰囲気なので見るのが気が重かったけど……。

 以下ネタばれあり。

 

 

 

 

 

 宣伝とか監督も出てる役者とかから「凄そう」っていう雰囲気がビシバシと伝わってくるんだけど、実際見ていて「地味だなー」と思ってしまっていた。

 BGMほとんどないし。音楽がほとんどなくて環境音が中心。宣教師のロドリゴアンドリュー・ガーフィールド)がひたすら神の存在を神に問いかけているばかりで。にしては原作ほど、宗教的な深みや凄味が伝わってこないような。ちょっともったいない。

 原作は高校の頃に読んで遠藤周作にはまっていろいろ読むくらいに好きだけど、最近読み返していないので全然覚えていなかった。ネットのレビューによると結構原作どおりらしい。

 確か原作もそうだった気がするけど、最後に神が語りかけてくるのが、どうしても白けてしまう。映画だと神(キリスト?)が喋った瞬間、どこのオッサンだよって思ってしまった。

 「神」「神」と言っているけども、神様ってなんなのよ、と。神様=神様なのか、キリスト=神様なのか。そこらへんも見ていてよくわからなくなってくるし、ロドリゴやフェレイラ(リーアム・ニーソン)たち自身もわからなくなってそう。

 まぁ、宣教師であって日本の宗教観に触れて、自身の神様観が揺らいでくるっていうのが、宗教的なテーマとして面白いところでもあるんだけど。

 とはいえ、日本人の信者たちは「なんだかよくわからない神様」信じて、そしてパードレのために死んでいったっていうのは、やっぱ虚しいし、馬鹿らしい。

 そういう、盲信的で無知な村人の虚しい死というモチーフは、吉村昭の『破船』を思い出す。『破船』もすごく面白いんだけど、やっぱ虚しさともどかしさが読後に残る。

 

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  窪塚洋介が思っていた以上に活躍していた!劇中では良くも悪くも「活躍」だけど、ハリウッド映画でこれだけ演技をしているのを見られるのはなかなか嬉しいもんだ。

 ただ、演技としては特に胸に響いてくるものは感じなかったので残念だったけど(まぁ、映画全体として)。でも、キチジローという役になりきって制作側が伝えたいことを完璧に表現していたんじゃないか、とさえ思えた。

 

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 キチジロー(窪塚洋介はもう準主役と言ってもいいくらい。そして、キャラの役回りとしてはトリックスターであり狂言回しという立ち位置か。

 キリスト教徒でありながら、家族もロドリゴをも裏切って、何度も踏み絵でキリストの絵を踏んでしまう。でも、映画の最後では、ロドリゴでさえ少なくとも表向きにはキリスト教を棄てたにもかかかわらず、キチジローはそれでもまだ信仰を失っていなかったのか、キリスト教徒であることがバレて捕えられてしまう。

 なんなんだこいつは、と。そう思ってしまうキチジローの最後のシーンだった。それまでも、捕まったロドリゴの前に何度も現われたりして、なにがしたいかわからない。踏み絵をしておいて。

 キチジローは「嘘つき」とか「裏切り者」というよりも、幼い人間で、物凄く優柔不断で、だから弱い人間なんだけど、他の信者よりも長生きしたという点では強い人間とも言えてしまう。やっぱよくわからない。

 でも、自分が映画を見ていて一番共感できたのがキチジローというキャラクターだった。

 観客である自分はもちろん映画をメタな視点で見ているわけだけど、キチジローは幽霊のような幻みたいな存在でもあり、ロドリゴや他の信者たちを、一歩引いて客観的に見ている存在のようにおもえる。

 それは、過去の歴史上にあったキリスト教の弾圧というものを、半ば冷やかな目でみている現代人に近い立ち位置のようでもある。

 遠藤周作自身がキチジローに自分を重ねて見ていた、という話を目にしたけど、自分もまたキチジローに一番自己投影して映画を見ていた。

 

 キチジローは家族を裏切ったという過去があるし、それに真剣に悩んでいる一面もある。だからシリアスで陰鬱な存在のはずなんだけど、やっぱなぜかコミカルに映る。

 踏み絵をしてしまって「立ち去れ」と言われて逃げるときの走り方とかなんなんだろう。その後ろ姿は悲しみであるはずが、おかしみをより強く感じる。真面目に神のために死ぬ人たちを嘲笑っているような後姿でもある。

 

 また、ロドリゴにつきまとっているキチジローの姿は『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラム(ゴクリ)と重なる。ゴラムも指輪のために友人を裏切った過去があってシリアスな面もあるけど、フロドたちと愉快そうに過ごしている時もあったり。

 見た目はグロテスク気味なんだけど、表情豊かで映画では首にヒモをつけられちゃったりなんかしてペットみたいな存在だ。

 キチジローにしてもゴラムにしても、最後まで信用できないキャラが魅力になっているんじゃないかな。

 

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 外国の人の印象はわからないけど、日本人にとってこの映画は「あのビルから飛んだ窪塚洋介がハリウッドデビュー」っていうインパクトが一番強いんじゃないかな。原作を知っている人は、映画化でしかもマーティン・スコセッシ監督!?っていう喜んでいいのか不思議に思っていいのか難しいインパクトはあったけど。

 まぁ、そういうインパクトがありつつも、中身を見てみるとなんだか地味だし背中のかゆいところに届ききっていないんじゃないかな、と思う。

 

  遠藤周作の小説はどれも宗教的な悩みを扱っているイメージでいつの間にか読まなくなってしまっていた。『侍』と『深い河』はおもしろかったと薄ら記憶している。