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sibafutukuri

音響系音楽、文学、アニメ、映画などについて書こうかなとおもっています。

藤沢周 『波羅蜜』 - 自分の葬式をあげてほしいと男は言った

文学
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 藤沢周さんの『波羅蜜』。単行本で読んでいたが、文庫になったので再読した。

 

■あらすじ

 葬儀ディレクター・倉木和利の前に現れた不審な男は、いきなり「私の葬式をあげて欲しい」と切り出した。この男によって「ダビデの心臓」なる秘密グループに巻き込まれた倉木は、そこが一流の人物のみで構成され、自殺をゲームとして楽しむ集団だと知る。死と生の狭間を楽しむ倒錯した快楽の果てに倉木が見たものは――。極限の生を描いた話題作が文庫化。解説・壇蜜

http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334769963

 

 一度目読んだ時には、独特のダークなルールの世界観にページをめくる毎に引き込まれていった。再読する前は、主人公倉木が巻き込まれていく物語の展開も結末うろ覚えだったけど、読み直して筋はハッキリと頭に残っているのだけど、それでもコップの底に沈殿したにごりが残ってくる。

 

 葬儀会社で葬儀ディレクターをやっている倉木和利が、病院の看護師と寝たりして遺体の葬儀を挙げる権利を手にする。遺体を「寝取る」とも言えるかもしれない。そうして寝取った遺体の葬式を会社が企画し執り行う。実際のところは知らないが、この物語での葬儀ディレクターの倉木の仕事ぶりはそういうものだ。

 

 前半は葬儀ディレクターの日常の虚しさの漂う日常が描かれている。病院の懇意にしている看護師。婚約しているが、別の男だ。その看護師と寝ることで遺体が手に入る。家に帰れば水槽に漂うクラゲの世話をする。クラゲの「遺体」は水面に浮かび、倉木はシンクに捨ててしまおうか、悩む。

 

 そして、奇妙な男が寄ってきて自分の葬式を挙げてくれ、と言う。そんな前半が特に好きだ。

 

 中盤以降はちょっと、気取りすぎ、作りすぎ、というかコミカルすぎるかな、と思ってしまう面がある。リアリティとはちょっと離れ過ぎているような。それでも面白いんだけど。

 

 やっぱり、おかしな自殺グループみたいな「ダビデの心臓」という組織の連中がおかしすぎる。冷静な狂気が普通ではない。紺野だけは「ダビデの心臓」側にいながら自分の生にしがみついて取り乱すことで、倉木と「ダビデの心臓」の中間的な存在になっているんだけど。紺野は、どちらにも属していないような、あるいは超越しているのかもしれない。

 

 結末は……。何度読んでもよくわからないね。いまシーズン2をやってる海外ドラマの『MR. ROBOT/ミスター・ロボット』のエリオットと同じで、終盤の倉木は妄想に囚われすぎている。

 

 物語の視点となる倉木が現実と夢の判別ができていないのだか、読者は何を信じていいかわからなく。逆に言えば、読者が何を信じるかが自由だ、ということでもある。

 

 藤沢周作品では良くも悪くも幻想体質の語り手というのはよくあることなんだけど。こういう文学的な小説では展開や結末が最重要ではないし。でも、この『波羅蜜』はエンタメ要素が強いから、この曖昧な結末はどうなんだろうとは思う。

 

 文庫版の解説を書いているのはまさかの壇蜜(最近名前すら目にしないけど)。新装したエロチックさとインモラルさを感じさせるカバーの雰囲気に合っている。壇蜜も短期間だけど葬儀の仕事をやっていたことがあるらしい。

 

 単行本版の紫の悪趣味な装丁も好きだった。こっちは仏教や仏像らしさとともに、触れたくないようなアウトローな世界が閉じ込められているような印象を与えてくる。

 

「……他の奴らは……どうしたんだ?」

「彼らも、まあ、人の死をネタに途方もないセンズリをかいていた罰だから、死んだんでしょう、それは」

 

 

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 一度目。

 

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  ほかにもいろいろ書いていますが、リンク貼るの意外と面倒だと気づいたので最近のだけ。気になるひとは「日記の検索」っぽい部分で「藤沢周」と入力して「一覧」で検索してみてください。

 

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