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2015年6月の読書

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  6月。引っ越しやその他の活動があり、読書に時間をあまり割けなかった記憶。が、それにしては良いものを読んだという満足感はあった。『幽霊たち』、『平凡』、『方舟さくら丸』、『鈴木ごっこ』は一年間の個人的ベストに入りそうな出来の本だった。





2015年6月の読書メーター
読んだ本の数:12冊
読んだページ数:3138ページ
ナイス数:142ナイス





■フィクション


界感想
  『文學界』連載の連作短編集。「旅先で見知らぬ女性と情事に陥ることもあるのではないか、と期待して、下半身が効かなくなるのを恐れて酒をセーブしようとなどとつゆとでも考えたのが、子供じみて馬鹿馬鹿しくなる」(「八橋」)。東京にいる本来の女とは心が食い違いはじめているようで、各地の旅先で瞬間の女を求める。度を越していて一歩引けば滑稽にさえ映るハードボイルドに浸っているが、虚しい男の下心が衝動としてある。次の一歩への躊躇いとか迷いが濃い。現実に挟まる記紀や仏教などの古来の日本的な物語が幻想性の味になっていていい。
読了日:6月28日 著者:藤沢周





幽霊たち (新潮文庫)幽霊たち (新潮文庫)感想
  ミステリアスであり探偵たちの話ではあるがミステリーではない。なぜなら、そこには事件がないから。事件の起こらない世界の探偵はインクの切れたボールペンで書く小説みたいなもので、退屈とアイデンティティへの不安と暴走で狂ってしまってもしかたがない。この、何も起こらないから何かを起こす手法というのは解説によると他の作家もやっているみたいだが、この作品では実に上手く成功しているようにおもう。中編小説で本当に事件が起こらない、というのはほぼ有り得ないので大体先は読めてしまうが、それでも文学作品として読み応えがあった。
読了日:6月21日 著者:ポール・オースター





平凡 (新潮文庫 草 14-1)平凡 (新潮文庫 草 14-1)感想
  私小説風だがどこまで作者の人生に基づいているのかは不明。本編を読んだだけでは作者自身の生活に見えるのだが。幼少期から作家として成熟し切って役所に勤めるようになる頃まで。確かに平凡な人生だが、読んでいて私はおもしろいと感じた。主人公は作家になるが、その職業的な部分の描写は抑えられていて、恋や身内の死、という平凡な事件が小説の主な要素となっている。平凡だからこその共感も生まれる。明治文学、自然主義文学、言文一致というのがポイントか。読んでいて漱石の『こゝろ』と堀辰雄の『風立ちぬ』、西村賢太を何度か思い出す。
読了日:6月21日 著者:二葉亭四迷





方舟さくら丸 (新潮文庫)方舟さくら丸 (新潮文庫)感想
  シニカルでブラックユーモアたっぷりな独特の比喩が溢れかえる安部公房節を堪能。それだけでも十分なのに、『砂の女』みたいに話の筋も面白い方向性の作品になっている。モグラやサクラたち対ほうき隊の抗争や交渉の様子は、洋画でよくある麻薬組織対警察みたいでサスペンス性が非常に高い。終盤があまり盛り上がらなかったのが残念だが。発表されたのが1984年で、もろに冷戦という時代の影響下にある小説。時代の特有性でもあり、当時の読者は核戦争に真剣に怯えていたのかもしれないが、今の読者にしてみれば滑稽にしか思えない視点の違い。
読了日:6月13日 著者:安部公房





鈴木ごっこ (幻冬舎文庫)鈴木ごっこ (幻冬舎文庫)感想
  『家族ごっこ』という映画の原作。木下半太さんは初めて読んだけどおもしろかった。オチは納得しずらいけど『ファイト・クラブ』みたいに二度目で再確認したくなるものではあった。赤の他人が四人集まって家族を演じる、という設定でだいたい食卓で話が進むので演劇っぽくて、安部公房の小説でありそう。描写はもっと軽いのですごく読み易いけど。調べてみたら2012年頃に演劇で上演していたらしくYoutubeに全編アップされている。サスペンスホラーという感じのジャンルか。
  【演劇】ニコルソンズ「鈴木ごっこ」https://www.youtube.com/watch?v=14fJ-cuViaE
読了日:6月11日 著者:木下半太





リーンの翼 1リーンの翼 1感想
  『機動戦士ガンダム』の富野由悠季によるファンタジー小説。「バイストン・ウェル」という世界観による作品はアニメや小説でいくつもあり一つのサーガとなっている。この本は80年代に書かれたものを2010年に再構成したもの。辞書ほどの分厚さで読むのに苦労し挫折していたが、『Gのレコンギスタ』がきっかけの再燃によってなんとか読了。現世と背中合わせになっている異世界へ、第二次大戦中の特攻部隊の飛行機に乗った青年が迷い込む。物語としてさほど惹かれないがたまに文章に現れる富野さんの思想やポリシー、そして富野節が刺激になる。
読了日:6月27日 著者:富野由悠季





さぶ (新潮文庫)さぶ (新潮文庫)感想
  『ドラえもん』の主人公がどちらかと言うと意見は割れるだろうけど、実はのび太が主人公なんだと納得できないけどそう思っている。『さぶ』の主人公は栄二で、さぶは助っ人的な立場の親友。グズなさぶ=のび太、優秀な栄二=ドラえもん、という構図が序盤では見える。しかし途中から栄二に人生崩壊のピンチが訪れるところから物語は大きく変わり栄二一人の視点に移る。さぶが栄二を心の支えとしたように、人への信頼を失った栄二もさぶを支えとし始める。ドラえもんのび太のように、信頼し合う親友関係。一人ではなく、支え合って生きていく人生。
  という感じだが読んでいてあまり心地いい読書ではなかったが。終盤まではただ人情くさく説教くさいだけでまだ無害だが、オチが驚愕。このオチは必要だったのか?ウソをつくなら墓まで持って行ってもらいたいものだ。解かれなくていいミステリーの謎もあるだろうに。女のエゴイズムへの恐怖。『銀二貫』や『邂逅の森』なども読んで思うのは、こういう王道的な人情小説は苦手、ということ。
読了日:6月27日 著者:山本周五郎





24・7 (幻冬舎文庫)24・7 (幻冬舎文庫)感想
  文体や表現がオシャレでグローバルでなかなか真似できるものではない。作家性が強い分クセも強い。内容としては乱痴気騒ぎとセックスだけなのであまり入り込める世界ではなかったが。『ぼくは勉強ができない』とか『放課後の音符』とかの作風のほうが好み。
読了日:6月5日 著者:山田詠美





■ノンフィクション


山の人生山の人生感想
  山人(読みは「やまびと」か「さんじん」か?)。日本に先住していて現在は絶滅した民族のことらしい。実在はせず後に柳田自身が否定したようだが、この本では色々な噂話や伝説を集めて山人の姿を記録している。「山人の特色とは何であったかというと、一つには肌膚の色の赤いこと、二つには丈高く、ことに手足の長いことなどが、昔話の中に今も伝説せられます」。大塚英志原作のマンガ『北神伝奇』はこの本を下敷きにしたフィクションで、柳田の弟子の兵頭北神という架空の人物を中心とした奇譚でオカルト色が強いが一方で真剣でもあり面白かった。
読了日:6月21日 著者:柳田国男





なぜ日本人はご先祖様に祈るのか ドイツ人禅僧が見たフシギな死生観 (幻冬舎新書)なぜ日本人はご先祖様に祈るのか ドイツ人禅僧が見たフシギな死生観 (幻冬舎新書)感想
  ドイツ出身日本在住のお坊さんによる日本人の死生観についての本。キリスト教ユダヤ教イスラム教や海外の文化を仏教と日本人の死生観と比較していて幅広いのが良い。もう少し深く掘り下げてほしいともおもうが。「お葬式で読まれるお経は時間で決められる」、というような本職だからこそ書けるし説得力のある業界話がおもしろい。
読了日:6月11日 著者:ネルケ無方





天使論天使論感想
  暗黒舞踏系の舞踏家・笠井叡さんによる神秘主義の本。父に借りて読み始めたが今日まで読み終えるまで何年掛かったか判然としない。非常に濃い本ではあるのだけど、ほとんど理解できていない。エリアーデスピノザグルジェフバタイユなど興味のある学者などに言及していて、密教錬金術に触れている部分もあるのだが、全体としてはいまいちはっきりと掴めていない「天使論」であり、最終的にはサド侯爵の哲学という一つの地点に収束していく経緯であるので、結局はまるっきり私には理解できていない。誰かに解説してもらいたい一冊。
読了日:6月9日 著者:笠井叡





世界の半分を怒らせる世界の半分を怒らせる感想
  アニメや映画の監督をやってる押井さんのメルマガのまとめ。基本的に時事的な事件や社会問題についてのコラム。サッカーや軍事関係は一歩引いて読んでいたけどアニメや映画、宮崎駿庵野秀明とのプライベートな関係とか思想を認めたり批判したりと面白い。押井さんと宮さんってもっと仲悪いもんかと思ってたけど、二人でどっか行ったりもしてるらしく、この本では率直に宮さんや作品を評価していて意外だった。高畑勲(やジブリ作品)や宮沢賢治農本主義者として批判していたり、米は主食として劣っているなど個人的に新鮮な視点。装丁が好き。
読了日:6月27日 著者:押井守





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界

方舟さくら丸 (新潮文庫)

方舟さくら丸 (新潮文庫)