- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/05/07
- メディア: 雑誌
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第120回文學界新人賞受賞作は二作品。『文學界 2015年6月号』に掲載されたものを読んだ。某所に書いた感想をちょっといじってここに載せる。
今回から選考委員は以下の四名。円城塔、川上未映子、松浦理英子、綿矢りさ。
http://www.bunshun.co.jp/mag/bungakukai/bungakukai_prize.htm
■加藤秀行「サバイブ」
だらだらと現代に生きる男たちの生活が書かれていて、現代の若者らしい固有名詞が溢れていてリアリティはあるが、だから何、という気もするし金持ちの若者感を出すためなどに出てくる固有名詞がわからない人からすれば辟易するだけだろう。
綿矢りささんが選評で「都会の若者の生活が嫌味にならないぎりぎりのところで粋に描かれていた」と書いているが、全然そんなことはなくて粋ではあるかもしれないが、もろに鼻に付く文章になっているし粋なだけで小説は面白くならないでしょう。綿矢さんの本音もそんなもんじゃないかと思うんだけど。
一方、吉田修一さんは「好感」と「嫌悪感」という言葉で表現しているが、上手く書かれていようが好感を持てなければ読んでよかった、とは思わないと私はおもう。
「2000年代って何なんだろうな」というセリフが象徴的だけど、現代に生きる若者たちのふわふわした生き方ってどうよ、みたいなテーマを意識しすぎている。
ありきたりだし、「で何なの?」と思うしかない。
宇野常寛さんが『ゼロ年代の想像力』で、90年代のセカイ系の後のゼロ年代特有の現象みたいな意味でサバイブ系という言葉を使ってた気がするけど、タイトルが「サバイブ」だからやっぱ意識してんのかな。言いたいことはわかるけど、なんかなーという感じ。もうちょっとヒネってほしい。
■杉本裕孝「ヴェジトピア」
植物の知識や描写と自分を植物だと思い込んでる不思議系主婦という、物語の中での絡み具合と描写力から実力があるように思える。
でも、構成面で失敗していて好感を持てて楽しめる小説にはなっていない。なんかいろいろ雑。やはりもの、人物、心理などの描写は読みごたえを感じるのだけど、人物とかの設定の部分なんかが詰めて考えられていない、というか。
オチも分かり易いオチをつければいいというものではないし。人が死ねばそりゃあ感情の起伏にはなるうだろうけど。安易でありながら物語における結末の定石という感じでもあるので仕方がないけど。
■選評について
吉田修一さんが全作品になにかしらキレてておもしろい。松浦理恵子さんは「ヴェジトピア」推し過ぎ。どうかしてる。円城塔さんは敢えてぼやかして書いているのか、いまいち何言ってるのかわからない。川上未映子さんについてそう言えば今までひと言も触れていなかったけど、思い出しても何書いていたか全く思い出せない。