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2014年10月の読書

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2014年10月の読書メーター
読んだ本の数:14冊
読んだページ数:3730ページ
ナイス数:128ナイス


■フィクション


シルトの岸辺 (ちくま文庫)シルトの岸辺 (ちくま文庫)感想
  近代の架空の国家間の休戦状態を舞台とした20世紀フランス文学。長編だし一々くどい文体は疲れるのだが、この酷く緩い空気感の中を漂う何かが起きそうな不安によって傍観者としての期待は高まる。冷戦という水面下での0が1に転ぶか否か、という緊張感の演出がとても上手い。長い物語の中、一人の主人公に寄り添って読むからこそ、この結末への思い入れが強くなる。初めて読んだ作家で邦訳は少ないが、これは読んでみてよかった。岩波文庫から出ている『アルゴールの城にて』も気になる。『シルトの岸辺』の新版も岩波文庫から。
読了日:10月11日 著者:ジュリアングラック





19本の薔薇19本の薔薇感想
  エリアーデが最後に書いた長編小説。ロマンティックでありフィクショナルにスペクタクル、そして主人公であり記憶喪失の青年ダミアンにとっては悲愴的なフィクション。小説として巧くはないだろうが、常識との少しのズレと夢と目覚めの境にいるような感覚のもたらす心地よさは特有なものでありお見事。作家や芝居の演出家、俳優たち、出版社の人々。みな虚構を作り出す人々であって、主人公のダミアンは彼らに囲まれている。嘘に塗れて本当を見つけられずにいる。幸福でもあり最も気の毒な立場でもある。ダミアンはスクリーンを決して出られない。
読了日:10月30日 著者:ミルチャエリアーデ





最重要容疑者(下) (講談社文庫)最重要容疑者(下) (講談社文庫)感想
  「ジャック・リーチャー」シリーズ最新邦訳だが原著は2012年に発表された17作目。リーチャーがヒッチハイクで乗り込んだ車から始まった物語は前半では誘拐や殺人事件と思われたが、帯の文句に「敵はFBIか、CIAか!?」とあるように国家規模の事件へと広がっていく。元陸軍警察とは言え、ただの放浪者がそんな事件に巻き込まれるというかグイグイと進んで絡んでいく物語の強引さが滑稽でもあり、そこが正義漢リーチャーとシリーズの魅力でもある。ベストではないがやはり本作も面白い。リーチャーの異常なまでに強い正義感を意識する。
  ジャック・リーチャーはアメコミヒーローなんかと比べたら、リアリティのあるダーティーでダークなヒーローだろう、とこれを読むまでは思ってもいた。でも必ずしもそうとは言い切れない。なぜならアメコミヒーローは超人的な能力があったりするので、雑魚な悪人になら命の危険もなく立ち向かえるわけで、それは日々の業務みたいなものでしかない。でも一方でリーチャーは自分の仕事でも、大事な人のためでもなく、進んで事件に関わっていき命の危険を冒して、そして本作みたいに悪人とは言え生身の人間を十人以上も殺していく。
  はっきり言って、リアリズムの観点からすればただの精神異常者でしょ。やばい人だよ。どこがリアリティのあるヒーローだよ、と思い直すのだった。アメコミヒーローに劣らないコミカルなヒーローぶりだと思う。『ウォッチメン』のテーマとして強調されているように、正義のヒーローと精神異常者は紙一重だ、ということも意識させられる。マイナス面もあるが、なんだかんだ言ってもヒーローの定義を考える上で興味深いし、単純にヒーローとしてジャック・リーチャーは魅力的なのだけれど。
読了日:10月31日 著者:リー・チャイルド





犬とハモニカ犬とハモニカ感想
  相変わらず人間の耕作的交錯でさえ淡白に描写するこの文体は、零度のようで零度ではないのだろうが疑似的な無を感じさせるので心地良い。静かに独特な心理描写、登場人物たちの洒落た生活。源氏物語の現代語訳らしい「夕顔」、ポルトガルが舞台のゲイカップルの田舎旅行の「アレンテージョ」、という風に短編集だがあまりに統一性がない気がして全体としては中々のめり込めず、すこしつかれただった。起承転結が良くも悪くもハッキリしない話ばかりだった気もする。もうちょいわかり易くてもいいような。
読了日:10月14日 著者:江國香織





宝島 (新潮文庫)宝島 (新潮文庫)感想
  海賊が遺した宝島の地図を乗せその宝島に向かう船に乗り込んだ少年ジムの冒険。という風にあらすじだけ見ればヤングアダルト向けの典型的な冒険小説なのだが、文体や表現などは一般小説のものだから、その違いがちぐはぐで意外で不思議だった。船内の集団心理学的な描写とかは面白いが。もっと軽妙にコミカルに書いてもいいのになと思い、興奮する冒険ではあるがすこし退屈な読書になった。海賊たちはやたらラム酒を飲んでいて、それを真似して自分も飲み始めてみた。『ジキル博士とハイド氏』の作者でもあるスティーヴンソン。
読了日:10月31日 著者:スティーヴンソン,佐々木直次郎,稲沢秀夫,RobertLouisStevenson





高野聖・眉かくしの霊 (岩波文庫)高野聖・眉かくしの霊 (岩波文庫)感想
  現代語訳を読みたくなる。旅僧が語る奇妙な話を聞く「高野聖」ともう一篇。夏目漱石の同時代の頃に生きた作家だが、書かれている文章は古文に近くそれプラス擬古的で独自の文字、言葉遣い。だから非常に読みにくい。それが味ではあろうけど、疲れる。書かれていることはわからないし、ほぼ覚えていない。ただ奇譚、怪談、怪奇的な雰囲気は好み。解説で比較されている上田秋成を読みたくなった。
読了日:10月19日 著者:泉鏡花





草迷宮草迷宮感想
  いったい何だったんだ……、という夢を見た後や奇妙な迷宮を抜け出した後のような読後感。正直、さっぱり文章が頭に入ってこなかった。無意味にさえ思えるほど異様に凝っている文章をまともに読む気になれず。管を巻くような駄弁で煙に巻かれたような気持ち。しかし、話の奇怪さや意図的なのかはわからないが読む者を迷い込ませるような体験はなかなか興味が残る。こういう奇怪ものを読んでいくと、変な実体験をしてみたいという変な欲求が高まってくるので困る。
読了日:10月31日 著者:泉鏡花




封神演義〈下〉降魔封神の巻封神演義〈下〉降魔封神の巻感想
  現実を見ての通り人間だけでも争いは起こるのだけど、この物語では仙人界の介入によって起こる戦争が描かれている。完結ということでめでたしなのだが、封神された人も仙人も「神」という存在になる。どうやら仙人と神は区別されていて、神は自由に動き回ることなく、ただ名や物語が語り継がれ奉られる存在のように思える。そもそも元始天尊らが企てる「封神計画」がうさんくさく思える。それなりに楽しめたが、もっと深く深く知りたくなる世界観。雑魚キャラかと思いきや土行孫の土に潜る能力の使い勝手の良さはあなどれないものだった。
読了日:10月1日 著者:許仲琳





■ノンフィクション


弱いつながり 検索ワードを探す旅弱いつながり 検索ワードを探す旅感想
  手軽でありながら濃厚な一冊だった。ネット社会をどう生きたらいいか、それは旅に出ることだろう、ということが基盤にある自己啓発書だけど時に批評的、時に哲学的、そして著者の活動であるフクイチ観光地化計画など。幅広いがしっかりまとまっている。ぼくたちは見たいものを見ているだけ、いたい場所にいるだけ、ということは少なくとも自覚しなければならないだろう。そして、旅に出られればもっとよい。きっと世界は広がるし、「自分」は絶えず更新されていくのだろう。そう簡単にできることではないのだろうけど。旅行いいなぁ。
読了日:10月6日 著者:東浩紀


●関連のあるエントリー
「検索という物語製造装置」(2014.10.06)





ジャパニーズ・ロードジャパニーズ・ロード感想
  デビュー作の『ASIAN JAPANESE』はアジア諸外国を扱っているようだが、この『JAPANESE ROAD』はアジアから帰国した沖縄から始まり北海道まで北上していく記録。その旅路で様々な人々に出合いプロフィールや仕事へのポリシーを聞き写真を撮っていく。風景やポートレートなどの写真七割、人物紹介や街の情景などの文章が残り三割、という具合の一冊。紹介される人物は自分の仕事に熱心だが成功者と呼ばれる人々ではなく、ただ自分の仕事に惹かれ究めていく人々という印象を受ける。陰気な日本の写真がそれに合う。
読了日:10月31日 著者:小林紀晴





レヴィ=ストロース『神話論理』の森へレヴィ=ストロース『神話論理』の森へ感想
  全四巻の大著『神話論理』が初めて邦訳されるにあたり2006年に編まれたレヴィ=ストロース好きたちによる小論集のようなもの。『神話論理』は未読だが、どんな内容なのか大ざっぱに理解はできる。なるべく読んでからこれを読んだ方がいいが。編者の渡辺公三さんと木村秀雄さんは『神話論理』の訳者でもあり、この本に文章も寄せている。人類学の、人間や住む世界について俯瞰的な視点。人類学への憧憬が蘇ってくるよう。
読了日:10月30日 著者:





水の国の歌 (熱帯林の世界)水の国の歌 (熱帯林の世界)感想
  ボリビアやそこから船で川を遡ったブラジルなどアマゾン川流域(アマゾニア)でのフィールドワークの記録。終盤の第六章は幻覚剤とシャーマンがテーマ。アマゾニアのシャーマンは巫術に植物から作った幻覚剤と歌を用いるらしい。シャーマンが儀式でお経のようなものを唱えたり叫ぶということは知っていたが、歌うというのは意外だった。治療として参加者も一緒に歌う。例えばRPGの『ファイナルファンタジー』でジョブの吟遊詩人が歌や演奏で攻撃や回復、補助を行えるがそういったアビリティに説得力を感じる。音が世界に与える影響は侮れない。
読了日:10月14日 著者:木村秀雄





共生の森―熱帯林の世界〈6〉共生の森―熱帯林の世界〈6〉感想
  アフリカのイトゥリと呼ばれる森に棲み込んだフィールドワークの記録。エフェ・ピグミーと呼ばれる小柄な狩猟民族と、農耕民レッセ族の共生。「共生の森」というタイトルは以上の異なる民族の協力を表し、一方で人間と森の共生を表しているのだろう。エフェとレッセは区別されているが、実情として著者が調査した70年代後半以降はお互いが結婚して子供を産むことも多く民族の混合が珍しくないらしい。さて、これで「熱帯林の世界」全七巻を読み終えてしまった。とても興味深いシリーズだが頭に入り切ってはいないので何度でも読みなおしたい七冊。
読了日:10月26日 著者:寺嶋秀明





インド哲学へのいざない―ヴェーダとウパニシャッド (NHKライブラリー)インド哲学へのいざない―ヴェーダとウパニシャッド (NHKライブラリー)感想
  宗教系とかジャック・ブロスの本を読んでいるとちょくちょく出合う「ヴェーダ」や「ウパニシャッド」という名前の書物。詩のような形で哲学らしきものが語られている断片を見た記憶があり、もうちょっと知ってみようと思い手に取った『インド哲学へのいざない』。読み易いが難しい。なぜなら正に「禅問答」のようなことが語られているのだから。アートマンブラフマンは区別されているのだな、と思っていた矢先にこの二つは同一だ、という文章もあったりと度々混乱する。でもわからないなりに面白く、もうちょっと理解したくなった。
読了日:10月30日 著者:前田専学





読書メーター





最重要容疑者(上) (講談社文庫)

最重要容疑者(上) (講談社文庫)

最重要容疑者(下) (講談社文庫)

最重要容疑者(下) (講談社文庫)

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