2013年1月の読書メーター
読んだ本の数:13冊
読んだページ数:4174ページ
ナイス数:40ナイス
こころ朗らなれ、誰もみな(柴田元幸翻訳叢書|アーネスト・ヘミングウェイ)の感想
ポール・オースターなど主に現代アメリカ文学を訳している柴田元幸さんの訳による「新訳ヘミングウェイ」。ヘミングウェイの小説は一通り読んでいたが、ほぼ忘れているので旧訳と比較しながら読むことはできなかった。けれども懐かしさと新鮮さのあった読書。「インディアン村 Indian Camp」が強烈に頭に残る。19篇の短編、中編が選出されて収められていて、ヘミングウェイの分身的存在であるニック・アダムズの登場する話が多い。
「女運のいいギャンブラーはいない。仕事に集中しすぎるから。夜に働くし。女といなくちゃいけないときに。夜に働く男で、まともな女を持ちつづけられる奴はいない」(負傷したギャンブラー) | E.ヘミングウェイ「ギャンブラー、尼僧、ラジオ」(柴田元幸訳)より。ハードボイルドなセリフだ。現代日本には当てはまらないことかもしれないけど、なんとなくハリウッド映画とかのギャンブラーとかダメ男のイメージが浮かぶ。
「宗教は人民の阿片である。…そして音楽も人民の阿片である。…いまは経済が人民の阿片である。…至高なる人民の阿片は酒である。…それらとともにギャンブルがある。きわめつけの人民の阿片、由緒ある阿片。…パンこそ人民の阿片である」(フレイザー氏) | E.ヘミングウェイ「ギャンブラー、尼僧、ラジオ」。物語の主人公の、作者の心の内をぶつけたような演説のような述懐の断片。宗教も音楽も経済も性交も酒もラジオもギャンブルも野心も、そしてパンこそが阿片だと言う。
読了日:1月21日 著者:アーネスト・ヘミングウェイ
紫の領分 (講談社文庫)の感想
天秤が横にずらっと並んでいて、その秤の真ん中をずっと歩いているような感覚。右にも左にも行き過ぎない。結局どちらにも行かず、降りていい時がきてめんどくさいと思いながらも、心の別のところではその時機を待っていたのだと、その時になって気づく。死んでいる者は生きているし生きている者は死んでいる、どこまでが想像かわかりにくい。紫色のゼリーを握ってみて、確たるものがないとわかり、それはそれで悪くないと最後に思う。
読了日:1月22日 著者:藤沢 周
礫の感想
ひたすら現実的な話がつづく。でもそれに鬱々と沈んでいって、開き直ってちょっと浮いていく主人公の胸中がおもしろい。結婚式のために婚約者と話し合っていて、式場はどこだ料理はフランスか日本か、猫を飼いたいだとか、転職すれば月給が上がるけど今より汚れ仕事だとかそんなのばかりの現実的小説。結婚式とか馬鹿らしいと思っていてそれは変わらないけど、必要悪のようなものかと読み終わっておもう。新聞記者の仕事や印刷所の校正室での描写など、相変わらず藤沢さんは業界の専門用語の使い方が上手く、リアリティのある世界に引き込まれる。
読了日:1月4日 著者:藤沢 周
雨月 (光文社文庫)の感想
ミステリアスでホラーなサスペンスという感じで、藤沢周さんの作品としてはすごく普通の小説っぽい。ハードボイルドでもあり官能的でもある。ミステリー的な小説っぽい面白さはあるけど、藤沢さんの独特なかんじは薄い。ラブホテルが舞台のサスペンスというのはゴシップ的でもあるけど作り話としてのリアリティがあってよかった。オチは藤沢さんらしさが最後の最後に出ていてよかった。
読了日:1月11日 著者:藤沢 周
カンガルー・ノート (新潮文庫)の感想
どこからどこまでが夢かわからない。あまりにも夢。現実としての足場が不安定すぎて終わりに近づくほど虚無感が強まる。小説だから現実なんてないのかもしれないけど。小鬼たちは可愛いイメージで好きだ。「オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨ」のリズム。かなり最近に思える91年頃に発表されたものなので読みやすい。安部公房最後の長編。
読了日:1月11日 著者:安部 公房
三好達治詩集 (新潮文庫)の感想
大学の「近現代文化論」というような名前の講義は、担当教員が近現代詩専門の方だったので、詩を多く扱ったものだった。その時にチラッと出てきたうちの詩人のひとりが三好達治。名前と生きた年代を知っているくらいの知識で読み始め、ほとんどが意味が頭に入ってこなかった。古語が多いこともあり。でも、読みやすいし言語感覚はけっこう好きだ。「測量船」「湖水」「鴉」「鉄橋の方へ」「雪景」「一点鐘」「ある橋上にて」「灰色の鷗」「青くつめたき」「水のほとりに」「駱駝の瘤にまたがって」など、詩の題が想像を膨らませるので好き。
読了日:1月21日 著者:三好 達治
新潮 2012年 12月号 [雑誌]の感想
読んだもの:安部公房「天使」、大澤信亮「新世紀神曲」、佐々木敦「批評時空間 特別篇 『ロボット』と/の『演劇』について」など。平田オリザさんと石黒浩さんのロボット演劇や、平田さんを対象にした想田和弘さんのドキュメンタリー映画を紹介している佐々木敦さんの「批評時空間」が特に面白かった。単行本として出ているものも読んでみたい。
読了日:1月21日 著者:
レンタルマギカ―鬼の祭りと魔法使い〈下〉 (角川スニーカー文庫)の感想
上巻を読んでから気づいたら数カ月経っていたけど、下巻もよかった。ファンタジーのなかの濃い人間ドラマ。本という媒体でのシリーズものは、キャラクターをエピソードを重ねることで何重にも固めていけるから、その分濃度が高まるのではないか。そういう意味では映画は不利なんだろうな、とか考えながらも読んでいて面白かった。小学生で巫女で魔法使いのみかんが主役の「鬼の祭り」編。みかんを中心とした人間関係が温かくも切なくもあって、よかった。
読了日:1月31日 著者:三田 誠
クロス×レガリア 死神の花嫁 (角川スニーカー文庫)の感想
同作者の前シリーズ『レンタルマギカ』での魔法使いたちの魔法というのは代償不可欠であり、ある程度の制限があって、だから魔法の威力や規模も終盤まではそれほど大きなものではなかったと思う。でも、『クロス×レガリア』においては魔術も馳郎の武装や装備も、序盤からほぼ無制限に近い。こういうところはこの二作で凄く対照的だと思う。三田さん自身がラノベとしては窮屈だった魔法の威力から解放されて、もっと派手にパーっとやりたいと思ったのかもしれない。実際、アクションとしては凄く派手になっている。でも少し味がないような。
読了日:1月23日 著者:三田 誠
世界樹木神話の感想
世界各国の樹木に関する神話を集めた本。読むのが大変な一冊だけど、前半が特に興味をそそられた。シャーマニズムや毒キノコを食べてトランス状態になるなど。訳者のあとがきによると、著者のジャック・ブロスは覚せい剤?にハマりすぎて一時期精神病院に入院していたらしい。元は小説家でのちにエッセイや植物関連の本を書いた作家。一部にフレイザーの『金枝篇』が引用されていることがきっかけで、『金枝篇』を読み始めた。
読了日:1月21日 著者:J. ブロス
初版 金枝篇〈上〉 (ちくま学芸文庫)の感想
民俗学の名著。その「ちくま学芸文庫版」上巻。膨大な先行研究の資料から集められた古代信仰、風習、呪術などをひたすら列記していくような構成。読むのが大変ではあるけど、たまにその民族特有の未知で新鮮な決まりごと、タブーなどの風習に刺激されて想像が広がる時があって面白い。フレイザーの研究方法は主に文献調査であることから、フィールドワーク派からは「安楽椅子の人類学」と批判されているとのこと。一つの書物からだけでは、どこまでが事実かはわからない。『金枝篇』批判や解説のような本も一冊くらい読んでおきたい。
読了日:1月31日 著者:ジェイムズ・ジョージ フレイザー
森と生きる―対立と共存のかたち (historia)の感想
著者の小山修三さんは文化人類学者、考古学者で、「植物の専門家ではない」と本人が書いている。でも素人目に読めばしっかりとした樹木学のような本になっている。主にフィールドワークで森や山に入っていった体験を基にして書かれている。専門書の側面もあるけど、オーストラリア、ドイツ、カナダ、奈良の森を実際に歩いた記録でもあるので旅行記のようにも読めて面白い。小山さんも書いているけど、森という環境は厳しいものなのだろう。でも、本書にあるような山歩きに憧れる。
読了日:1月5日 著者:小山 修三
ミステリーの書き方の感想
良書だと思う。幻冬舎のPR誌『ポンツーン』に連載された主にミステリー作家の「書き方」に関するコラムやエッセイ的なものを集めた本。例えば東野圭吾、宮部みゆき、福井晴敏、乙一など。ミステリーを書きたい方は勿論、それ以外の小説を書きたい方にも役立ちそう。ぼくはミステリーは普段読まないし書きたいと思っていないのだけど、これは読んでよかった。当然ストーリー性はないので読み終わるのに苦労したけど。ミステリーを読んでないのでそれは無理でも小説を書きたいとまず思う。そして、これからはミステリーを読んでいきたいと思う。
読了日:1月7日 著者:日本推理作家協会
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