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藤沢周 『波羅蜜』 - 途中の感想

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波羅蜜 (光文社文庫)

波羅蜜 (光文社文庫)


  藤沢周さんの『波羅蜜』を読んでいる。まだ100ページも進んでいないけれど。藤沢さんの本はこれで10数冊目だ。


  『波羅蜜』の主人公は葬儀屋で仕事をしている。まだ観ていないけれど、映画の『おくりびと』に近い職業の話かもしれない。でも『波羅蜜』の方は看護婦と寝ることで、葬儀を開いて会社の利益にするために遺体を「転がして」もらうなど、業界の黒い面が強く見える。『おくりびと』より、更にじめじめと黒々としていそうな話。


  まだ100ページもいかないうちに、藤沢さんらしくてなおかつ文学としてもいい箇所が二つはあって、それを見つけられて嬉しかった。


  台所のシンクに干からびたラップがぐしゃっと放置してある。なんでこんなところに?と考えて思い出す。昨晩、水槽の水面に浮かぶクラゲを掴んでみてら、それはもう「ブツ」になっていて、要するに死んでいた。それを掴んだまま、置く場所に迷いつつもとりあえずシンクに置いてみた。その瞬間、ケータイに電話の着信があってそれっきり忘れていた。シンクで干からびているのはクラゲだった。


  主人公が務める葬儀会社の前に怪しげな男がうろついていて不審に思っていた。その後、なぜか家の前で出くわす。「○△×会社〜営業部 山田太郎」というような名刺をもらい、ここの番号に電話してくれと言われる。主人公はその男の会社に電話してみる。しかし、その男は電話に出ることはなく、別の社員から「山田さんは3か月前に亡くなりました」と伝えられる。


  二つ目は特にホラーを感じた。ホラーにもなり得る小説。でも、全体的に『波羅蜜』はサスペンスなんだろう。


  上に挙げたような二つの奇妙な出来事。これらは現実になさそうで実際はあり得てもおかしくはない。


  実際にシンクに干からびたクラゲが置いてあったり、渡された名刺の男に電話してみたら死んでいました、ということが起きたらかなり奇妙だ。でも、それが現実にないとは言えない。あったらオカシイけれど、あってもオカシクはない。


  そういうギリギリ現実的な奇妙な出来事、というものが藤沢さんの他の小説でもたまにあって、その部分にぶつかるとゾクゾクとして、滅多に出会えないものに出会えた気分で嬉しくなる。


  いくつか例外はあるだろうけれど、基本的に藤沢さんの小説の足場は現実から離れ切ってしまうことはない。たまにもう現実から非現実や幻想世界へ浮かび切ってしまいそうな時があるのだけれど、足の小指一本のところで身体全部は離れ切らない。だから、ファンタジーにもホラーにもならなくて、ギリギリサスペンスであることを保っている。今のところはそういう印象を持っている。


  ファンタジーやホラーになることが悪いわけではない。ある意味でミスリードを誘われる。ホラーになるのか?ファンタジーになるのか?でも、結局のところ現実的なところに引き戻される。ぼくの場合、その引き戻される、巻き戻される感覚が嫌いじゃない。好きなのかもしれなくて、だから藤沢さんの小説を読み続けているのかもしれない。


  何か、革命的な何かが起きそうで、結局のところ何も起こらない、というような。


  でも、それに落胆はしない。むしろ小説的な約束事や読者の期待への作者の裏切り、それがどうしてか時に快感になる。



  藤沢さんの小説の場合、ギリギリのところで現実的、という際どさが醍醐味なのではないかと、この『波羅蜜』を読んでいて思った。読み終わったら、その時はどう思っているか見当もつかなくて楽しみなのだけれど。


波羅蜜

波羅蜜


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  ほかにもいろいろ書いていますが、リンク貼るの意外と面倒だと気づいたので最近のだけ。気になるひとは「日記の検索」っぽい部分で「藤沢周」と入力して「一覧」で検索してみてください。