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奇術師と雪ウサギ(アニメ映画 『イリュージョニスト』)

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※ネタばれをしないよう注意して書いたつもりです。


Trailer: The Illusionist


  『イリュージョニスト』というアニメ映画を観ました。新作なので映画館で。映画館で映画を観たのは、去年の『インセプション』ぶり。


  『イリュージョニスト』は、「ジャック・タチ監督が生前に執筆した脚本を、シルヴァン・ショメ監督が脚色した」ものらしいです。三鷹の森ジブリ美術館が配給かなんかをしてくれたおかげで、日本でもわりと大規模に公開されたのだと思います。と言っても、上映している劇場は都内でも数か所ほどでしたが。


  すごく好きな映画でした。映画の世界に浸れるような、絵と音楽の演出がとても好み。スコットランドの首都エディンバラが大体の舞台で、その街の風景もよかったし、もっとよかったのはスコットランドの離島の風景や宿屋と酒場が一緒になったような店の雰囲気など。


  もっとも印象深く、感動的だったのは離島へ船で向かう場面と、離島から本島へ船で帰る場面です。どちらも壮大な山々や海の景色といっしょにバグパイプも使われた楽曲が流れるものだから、圧倒されるものがありました。映画館だからということもあったかもしれませんが、この絵と音響の迫力と、この作品に出遭えた嬉しさが同時に迫ってきて感動しました。


  個人的にバグパイプの音が好きなので、この映画にはアイリッシュ音楽が多く使われていて、そのなかによくバグパイプの音もあったのでそれが嬉しかったです。それが絵と合っていることもあり、映像と音響などの演出面では完璧なアニメと言ってもいいくらいに思えます。本当はこれで満足してはいけないけれども、これより優れたアニメが作られる気がしません。日本ではもう絶望的。




Sylvain Chomet - The Illusionist Soundtrack - London Iona




  この映画は、劇中ほとんどセリフがありません。今回、字幕版で観ましたが、字幕が出てくる部分は普通の映画と比べればそうとう少ないと思います。主人公の母語は字幕に出るが、それ以外の言語はキャラクターが喋っていても字幕には出ません。しかも、主人公がチャップリンミスター・ビーンみたいな白痴の芸人みたいなキャラで、ほとんど喋らない。『イリュージョニスト』の場合、主人公は魔術師ですが。チャップリンやビーンと同様に、言葉ではなく身体の動きや表情で物語るタイプの人物です。というか、この物語自体がそういう言葉では表さない映画と言えるかもしれません。


  認識できる言葉が少ないせいもあってか、ストーリーとしてはわかりやすいのだけれども、結果として何も残らないようにも思えてわかりにくいような感じです(自分でも何を言っているのかわからないような文章)。客に物語を伝えるということでの演出が、あまり上手くなかったように感じる。ストーリーは飾りだという前提で観れば、全然問題ないようにも思えるのですが。


  映画を観終わったあと、日本語の公式サイトを見ていて非常に残念なことがありました。それは、公式サイトでこの映画の「裏設定」のような情報を物語の概要として公開していることです。例えば、「男Aには女Bとの間に生まれた子供Cのほかにも、実は子供Dがいるのです」みたいなものです。子供Dの情報なんて、映画をふつうに観ていて気づかないか、気づいてもほのめかし程度のものにもかかわらず、映画というテクスト外で情報を付け加えようとしています。これは、本当につまらない。


  そういう設定の公開は、ふつうの言葉でベラベラと説明する映画ならいいかもしれません。でも、『イリュージョニスト』のようなほとんど絵と音楽で表現している作品の場合に、後から「アレはこーで、コレはこーなんだよ」と横から口出しをされるのは興醒めです。そんなことは、どうでもいい。裏設定は、作者側の妄想の押しつけでしかないと私は思います。妄想を表現した作品内でそれを表現しきれず、客にそれが伝わっていなければ、あなたの負けです。私は負け犬の遠吠えは聴きたくありません。


  パンフレットにしろ、公式サイトにろ作品を観る前に概要を確認することは可能ですが。この映画の場合、そいう下準備はほとんど必要ないでしょう。





  こういう映画はなにも考えず、ふらっと劇場に立ち寄るような気分で観賞したい。『イリュージョニスト』はそういう映画だった。すばらしい映画だった。ウサギがとても可愛かった。



Illusionist

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