くらやみのなかで蒲団に横たわりながら、右手に握る携帯電話の画面からの光に顔面を照らされてぼうっと呼吸をしていた。
eluviumの'Behind Your Trouble'がながれていることに気がついた。これは33:19もある大作で、一曲まるごと聴くことは滅多にない。大変だから。
いま寝ようとしても眠れないことは分かり切っていたので、短期休息に就くまえにパソコンでこの曲を再生させておいた。けれども、2分もしないうちにこの音響の存在を頭では忘れていたように思う。音量は普段より多少下げる程度で、十分に耳に届く大きさであった。わざわざノンビートののんびりしたものを選んだのは、そういう狙いの下にあったのだが、それでもおそらく15分くらいという予想以上に長時間にわたって、確かに周囲に在るはずの音響を忘れていたことが嬉しくもあった。
'Behind Your Trouble'は環境とともに在る音楽を体感させる。そういう音響でありAmbient Musicだ。
さらに言えば、この機関車の汽笛か車体の下から蒸気を発する音やカラカラと何か物を動かす音や誰かの足音など、それに重なる、のこぎりが発するようなノイズと逆再生で微かに鳴るメロディや巨大換気扇みたいにうなるドローンを総合させたこれというのは、環境そのものであり、箪笥とか食器棚とか机や椅子とか壁掛け式時計みたいにそういった家具と等しいものなのだ、と言っていいと思う。
先ほど、私は身体を横たわらせながらそう感じることが出来たのだ。この私と在る音響の生成の仕方というのは、音響の一つの理想である。