sibafutukuri

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チョコレートは溶けない

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  コーヒーにチョコレートを入れてみたことがあった。ホットコーヒーに明治の板チョコを入れてみた。それは、成功か失敗かでいえば失敗であった。私の夢あふれる想像としては、コーヒーの中でチョコレートが融解し苦いながらもほのかに甘いような、双方の美点を活かした魔法の飲み物ができるはずであった。しかし、実際に飲んでみると、中途半端にチョコの味がする気色悪い飲み物になっていた。味の点からすれば、私の実験は失敗であった。
  しかも、視覚的にどうかというと、これはより悲惨であった。まだ熱湯に近い液体の中に入れたばかりのチョコは、ソファで体をちぢこませ愛らしい顔をしてすうすうと寝息をたてる犬のようにおとなしく、磁石のN極とS極どうしのように仲良し小好しに合一化していた。しかし、液体の温度が下がるほど、チョコの一部の成分が悲劇的に凝固していくのである。その茶色の細かい成分は、マグカップの円状の縁を非均等な間隔で埋め尽くしていく。そして、先ほどまで一体であったにもかかわらず液体内のチョコの成分は、液体と分離化を図り、それはおそらく油かなにかであろうが、水と交わらないこととおなじく、この場合もチョコとコーヒーは侵略や侵攻を繰り返した結果、暫定的にその水上における戦場は拮抗している。私の観察の限りでは、液体側の領土がわずかながら広く拡大されているように思われた。

  だから、味覚的にも視覚的にも前回の実験は失敗だといえる。前回ということはそれの次があるということであり、その次は今夜行われた。迂闊であったとしかいいようがない。結果からいえば、右に書いたとほとんど同じことが起きた。つまり、また失敗した。


  インスタントの粉をカップに適量ばらまき、蜂蜜を一粒捻り出し、砂糖を小さじ二杯ほど入れひとまず熱湯をそれに注いだ。牛乳を冷蔵庫から取り出したまではよかった。私は冷蔵庫内の一角に、いつか見たと同じチョコレートを認めてしまった。私はそれを、どちらかといえば右側の前歯で5mmほどの長さにするためにかじりつき、その刺激的な甘さにうんざりしていた。板状のものから取り出したのは、その一部でありブロックのようにに区分けされている内のだいたい1.5個分であった。

  それから。いつかみた発展的想像が溢れんばかりの夢が頭にかすめた。先まで冷えていた牛乳は熱湯のなかに注がれたことと、圧倒的にその分量が少ないことから俤はかすかながら色として認められる程度であった。それによって黒から茶色に変色を遂げたコーヒーに、私はあの見誤った希望のせいで、チョコレートのかけらを放り込んでしまった。やってしまったことは仕様がないので、私はスプーンでもってそれらをぐるぐるとかき混ぜ、個体が溶けて液状になるのを待った。


  やりかた次第では、この二つの交配は成功し得るのだろうけど、考えなしにやっても同じ過ちを繰り返すだけなのかもしれない。ほとんど空になったマグカップの底で転がる、ころころして小さなチョコの幾多の塊をながめながらそのまま板チョコを食べればよかったと、とても後悔している。

チョコレートの科学―その機能性と製造技術のすべて

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